先輩の言葉で看護師を辞めなかったって話

わたしは現在28歳の女性です。看護学校卒業後から、大学病院の小児科で看護師として働いています。

わたしが看護師になろうと思ったきっかけは、わたしが幼い頃に体験した入院でした。当時わたしは身体が弱く、よく風邪をこじらせて入院していました。

そのときに担当してくれた看護師はいつでもわたしに優しく、丁寧だったことがとても印象的でした。また、わたしの両親にもよく声を掛け、わたしだけでなく家族へのケアもよく行なってくれていました。わたしはそんな看護師を見て、わたしも看護師になって患者さんの病気のケアをしながら、患者さんと家族の気持ちに寄り添える人になりたい、と思うようになりました。

就職してからもその思いは変わらず、知識も技術も不十分ながらもこまめに患者さんのもとに行って精神的な看護ができるようにと努力していました。しかし、それをよく思わない先輩がいました。

その先輩から、「医療ケアもまだまだ勉強不足で何もわからないのに、患者さんのところへ行って何をするつもりなの。」ときつく指導されました。

その先輩が言うように、わたしはまだまだ経験不足で、患者さんから医療の質問をされても答えることができなかったり、医療行為は一人で行なうことができないなど、医療者としての力はまったくありませんでした。しかし、少しでも患者さんのもとに行って話をしたり身体をさすったりするだけでも、その患者さんの心の支えになることも話し相手になることもできるのではないかと考えていました。しかしその思いを先輩に否定され、看護師としての力量は経験がすべてなのだろうか、ならばわたしはなにを目標に頑張ればいいのだろうかととてもショックでした。

その頃から、わたしが描いていた理想の看護師になることは不可能なのかもしれない、看護師は向いていないのでは、と思うようになりました。毎日家に帰ってから疾患や医療ケアの勉強をする毎日でしたが、気がつくと携帯で転職サイトを眺めていたり一般職に就いた友人のことを考えていたりと、看護師を辞めて他の仕事に転職することを無意識に考えることが多くなりました。

そんなとき、わたしにきつい指導をした先輩から声を掛けられ、業務後に話をすることになりました。先輩はわたしが悩んでいることに気付いているようでした。
先輩から、最近何を考えているのかと聞かれたわたしは、今の思いを正直に伝えました。経験がなければ患者さんのところへ行っても無駄だと言われているような気がしたこと、自分が描く看護師になることは不可能なのではないかと感じ無力感を感じていることを話しました。

すると先輩は、「あなたがなりたいのは心理カウンセラーなの?それとも患者さんの話し相手になりたいの?

あなたは、看護師として患者さんの命を救う手助けがしたいから看護師になったんでしょう。」と言いました。先輩は、わたしの患者さんに寄り添いたいという思いを否定することはありませんでした。

しかし、患者さんの疾患、今行なっている治療、そしてこれから起こると考えられる変化についてきちんと理解していなければ、本当に患者さんの気持ちに寄り添ったコミュニケーションはできないと伝えてくれました。

わたしは先輩の話を聞いて、頭を殴られたような衝撃がありました。わたしはなんのために患者さんに寄り添おうとしていたのだろう、患者さんの背景を理解せずに患者さんに近づいて、そんなわたしに何ができたと言うのだろう、と思いました。自分の無力さと不甲斐なさをそのとき初めて痛感しました。

それ以降、わたしは一層勉強に励みました。少しでも知識と経験を積んで患者さんと家族に信頼される看護師にならなければ、と思いながら仕事に打ち込みました。

あのとき、先輩と話をすることがなかったらわたしは今頃転職して看護師とは違う職業に就いていたかもしれません。わたしを指導し、道を正してくれた先輩に心から感謝しています。